【緒言】:「土木の仕事」
本寄稿文は、筆者が36年間のゼネコン生活を振り返り、「土木の仕事の基本(基礎・モノの成り立ち等)」を、個人的所感として整理し『土木の仕事』としてまとめたものである。
土木の仕事は多岐に渡る。道路・橋・トンネル・ダム・港湾・浄水場・下水処理場等々、これらは完成すれば地上に現れる。形が見えるのである。
一方、橋梁等構造物の基礎杭・上下水道の取水送配水等の管路・法面保護工としての鋼棒鋼線アンカー・ダムの漏水防止基礎地盤補強等の地盤改良工事等々、これらは完成しても地中に埋もれたままで地上からは見えない。
更に、トンネルの坑口(出入口)に寄り付くまでの工事用道路や仮設桟橋・橋梁完成まで上部工を支える支保工や河川内の橋脚施行であればそこ迄寄り付くための仮設桟橋・ダムやトンネル工事での濁水処理工事等々、これらの仕事は完成後撤去され跡形も無くなるのである。
この様に、「土木の仕事(インフラ、構造物)」は多種多様である。従って、その工種(土木工事)により、『使用材料・専門性が要求される多工種の作業員・使用機器類』も全く異なる。 正にCivil Engineeringである。
それでは、これ等「土木の仕事」で共通する事(モノ)は何であろうか。
私は「施工計画(書)」だと思っている。「施工計画書」は、全ての工事において「材料・労務・機械工具」について工事計画(手順・管理手法・QCDS)を立案し、施工中見直しを行いながら実施する事で、最適にモノを仕上げる方法(行為)を、関係者全員に提示・共有させる「羅針盤・バイブル」だと思う。
そんな訳で、本稿では「土木の仕事」≒「施工計画(書)」と捉え、話を進める。但し、個々の施工(工事)進捗状況を「管理」する「施工管理」については、分野毎(官公庁、コンサルタント、施工業者)に、その捉え方に微妙な違いがある様なので、この事に付いても私見を述べたい。従って、サブタイトルは “~「施工計画」「施工管理」~” とした。
これから土木の世界(現場)に出ようとする学生や、社会に出たての新入土木技術者の方々の参考に成れば幸いである。
<目次>
1. はじめに
2. 「施工管理」と「施工計画」との位置付け
2.1 「定義」と「QCDS・M」の事(私見として)
2.2 「PDCA」の事(QC・BS共)
2.3 管理能力の蓄積についての一考察
3. 土木技術者として頭に入れておきたい・知っておきたい事 雑記
4. 着工前の必須事項抜粋
5. その他、興味を持って欲しいいくつかの事
1. はじめに
近年、土木関連工事(インフラ)でも 「計画・調査・設計・施工・維持管理理」等、業務のDXには目を見張るものがある。一方、たまに見聞きする報道や報告記事に接した時、「施工計画」「施工管理」の基本を学び直す場(≒アナログ)の必要性を感じている。
「施工管理」とは、工事実施前に作成する「施工計画書」に記載する「QCDSM(品質・コスト・工程・安全・マネジメント人材教育)」管理の総称である。又、個々の管理項目は、施工中に必ず見直し(フィードバック)され、その際のツールとしての「QC手法」「ブレーンストーミング(BS)」と「PDCA(又はPDS)」サイクルの利活用は必須事項である。
そこで、本講では「土木工事」の簡単な流れの中で、「管理」の基本・ポイントを述べ、「施工管理」とは何かを理解する事と、併せて若手土木技術者として要求されるであろう事象の一端を紹介する。
2.「施工管理」と「施工計画」との位置付け
2-1.「定義」と「QCDS・M」の事(私見として)
(1)「管理」と「監理」
(2)「広義の施工管理」≒発注者側から見た「管理」(≒事業又はプロジェクト進捗管理)、
(3)「狭義の施工管理」≒施工者側から見た「管理」
1)施工計画と施工管理
工事着手時には、施工計画書と実施予算書を作成し本支店での審査委員会で審査・承認を受ける。JV工事ではJV運営委員会で審査承認を受ける。工事中は、施工計画書を基に実施対計画の見直しを行いながら(PDCAのサイクルを廻しながら)、施工管理を行う。従って、両者を位置付けるとすれば、広義では施工管理は施工計画の一環に含まれる行為、狭義では施工計画作成後の実施工管理と言う独自の行為と見なされる。
2)施工計画は施工計画書としてまとめられ、その内容は以下の通りである。(『「施工計画書目次」サンプル』参照)
①施工方法(材料・重機器類・労務・手順・仮設計画)
②出来形・品質管理計画[Q]
③工程計画(表)・稼働率[D]
④安全衛生・環境管理計画[S]
要は、施工管理5項目の内、「品質[Q]」「工程管理[D]」「安全管理[S]」についての基本計画が施工計画書に記載される事に成る。又、積算の資料と成る施工方法・工程表も記載されている事から、「原価管理[C]」までも施工計画書に包括されている事に成る。
3)実施予算書は施工計画書をベースに作成する[C]。
4)マネジメント[M]管理は、職位別に研修会・講習会受講等が計画されており、配属先の各部署では責任者の裁量によるOJTに任されている。
(4)「狭義の施工管理の定義」
従って、「狭義の施工管理」は、『設計図書類に記載された要件を満足する構造物・製品等を完成する過程において施工計画書を道標として実施する、必要不可欠な「品質管理[Q]」「原価管理[C]」「工程管理[D]」「安全管理[S]」及び「マネジメント[M]」等の行為である』と定義出来る。
(5)「広義の施工管理の定義」
『事業が各法令上(「建設業法」「会計法」等々)適正に履行されているかどうか、設計図・特記仕様書等に準拠して正確に施工されているかどうか、について「監督管理・検査」する「施工監理」』と定義出来る。
「施工計画書目次」サンプル1
「施工計画書目次」サンプル2
「施工計画書目次」サンプル3
「施工計画書目次」サンプル4
2-2.「PDCA」の事(一部では「PDS」と言う表現も使われている)
意外と文言のみ理解しているが実施していない、又は不完全な形での実施に終り、有効に活用されていないのではないかと思われる。ポイントはQC手法との連動である。身近な例について概説する。
(1)「PDCA」
1)鋼矢板Ⅲ型、L=15m打設の例(「表」「グラフ」表示が望ましいが)
ⅰ)施工計画(「P」である)
a)1日当り打設枚数 N=10枚
b)サイクルタイム
①始業点検:20分、②移動位置決め:5分、③打設:20分、④移動位置決め:5分、 ⑤終業整理整頓:20分、⑥昼食午前午後休憩:90分、 ⑦予備(修理手待ち等):30分
時間合計≒20+5+(20+5)*10+90+20+30=415分(≒7時間)
ⅱ)実施工(「D」「C」である)
a)打設枚数 N=9枚(9枚しか打てなかった)
b)サイクルタイム
①+②+⑤+⑥≒135分、③≒23分、④≒5分、⑦≒45分、時間合計≒135+(23+5)*9+45=432分(≒7時間)
ⅲ)実施工分析及び対策の立案(「C」「A」である)
a)ブレーンストーミング(BS)・パレート図による実施工分析。
b)特性要因図による対策の立案。
(*):本例は1本のみでのデータで、明らかに(③)打設で3分多くかかっている事(3×9本=27分)と、⑦の45分の分析が必要で、③、⑦が対策立案項目となる。即ち、分析は正確なデータ集積から始まる。
2)生活費削減の分析(身近なサンプルとして)
この種の事例では、個別費用の大小に着眼して分析を始めると家庭内不和の元に成るので、重要度・質をベースに分析をするべきだと思う。聖域はあるか。
ⅰ)項目としては
①食費、 ②家賃、 ③上下水道光熱費、 ④被服費、 ⑤教育費、⑥娯楽遊興費、 ⑦小遣い、等々が考えられる。
ⅱ)家族、或いはパートナーとやってみたらどうですか。
3)業務評価点の分析例(『「パレート図」サンプル』参照)
(2)QC手法による分析
1)QC七つ道具(異論あり)
①散布図、②層別、③グラフ・管理図、④ヒストグラム、⑤パレート図、⑥特性要因図⑦チェックシート
この中で、個人的には「ヒストグラム・パレート図・特性要因図」の汎用度が高かった(分析対象物により使用頻度は異なると思う)。
2)一般的な「QC手法」の流れ
ⅰ).「テーマの選定(選定理由も)」
ⅱ).「現状の把握(分析)」
ⅲ).「対策の立案」
ⅳ).「実施」
ⅴ).「効果の確認」
ⅵ).「ⅱ)~ⅴ)」繰返し
ⅶ).「歯止め(マニュアル等の作成)」
が一般的であるが、途中の項目を省略、又は同時に実施する場合もある。
(3)BSによる分析
1)対象項目(課題・問題点)を決める。ネガティブな表現が良い。
例えば、「事故が多い」「違算が多い」「受注が少ない」等々。
2)書記を決めて、メンバー全員の発言を大きな紙に書いて行く。又は、小さなメモ用紙に書いて、ホワイトボードに張って行く。
3)それらを、同類項目毎(ex.人・組織、金、物、道具etc)にまとめて行く。
4)まとめた同類項目毎に、その中で特に主要因と考えられる項目を各人が投票し、その結果から上位2~3項目を、ネガティブ発生要因として選出する。(1位:5点,2位:3点,3位:1点で投票)
5)選出された項目毎に、全員で討議し対策を立案する。
「パレート図」サンプル1 『業務の評価点一覧』
「パレート図」サンプル2
2-3.管理能力の蓄積についての一考察(時間も経験も少ない---管理能力は何で培われるか)
(*1):「(単純な)基礎知識」は、近年設計図書類の殆どが電算処理されている為、それ等を短時間で照査・出来る能力と成り得る。
(*2):大まかな知識を持って、詳細な技術等を「身近な人に訊く」と言う行為は、異なる条件下ではどの様に対応するかを自分で勉強する事で、その知識は更に広がる、と言うより広げなければ成らない。
3.土木技術者として頭に入れておきたい・知っておきたい事 雑記
近年、設計図書類は殆どが電算処理されている為、それ等を短時間で照査・チェック出来る能力が必要。その他、思いついた事として。
3-1.「構造力学」「水理学」「コンクリート工学」「土質力学」の基礎知識。ex,
①単純梁・片持梁・杭横抵抗(Y.Lchangの式)。
②マンニングの式。
③高強度コンクリート基準・生コンクリート打設基準・鉄筋重量/M3(橋脚・スラブ・擁壁etc)。
④(簡易な式としての)土圧式・支持力式・沈下式・試験結果の解析力。----何れも、個人チェック用としてエクセルで簡単にプログラム作成可能である。一例を以下に記載する。
3-2.何を見れば調べれば判るか、誰に訊けば判るか
1)多くの専門書の中から、必須又は、自分にとって汎用性の高い図書を出来れば自費で購入する事を薦める。例えば、
①「道路協会」発行の各種図書。 ②「水理公式集」。 ③「コンクリート標準仕様書」各編。 ④「地盤工学会」発行の各種図書。
(*):ネット社会・AI利活用向上の現在、検索・調査は容易であるが、自分がこれから専門としたい、或は興味のある分野での書籍購入は、(自腹を切っての購入なので?)吸収力は大きい。
2)「誰に訊けば判るか」。これは日頃から、出来れば「GIVE&TAKE]での人脈形成を築く事により可能と成る。自分も人に教える事が出来る分野を構築しておく事が必要。
3-3.キャリブレーション・動態観測による「精査・照査」の必要性。
3-4.竣工時に表に出ない、又は取払われた材料等の品質管理。
3-5.仮設・架設工事の重要性(どんな材料を使って、どんな機械・機器類を使って、どんな専門職の人達と、目的構造物等を作っていく手順を考える行為)。
3-6.工程管理の事
1)「マスター行程表」、「月間行程表」、「週間行程表」。フィードバック。
2)「工程計画(工程表)」の作成に際しては、過去の実績から標準工程的なものがあり、これに依る処が多いと思うが、個別工事の詳細な工期(所要工事日数)を調べるには、「国交省土木工事積算基準」の活用も有効である。
3)大まかな掴みとして、例えば
①高さ10~15mの橋脚であれば、ⅰ)準備工事1ヶ月、ⅱ)基礎工事1ヶ月、ⅲ)躯体工事2ヶ月、ⅳ)片付け復旧工事1ヶ月 合計4ヶ月。
②土工事の構造物掘削であれば、400~600m3/set月、大規模土工事であれば、1,000~1,200m3/set月。
③コンクリート打設なら、プラント能力・ポンプ車打設能力を考慮して、300~400m3/set日。
4)工期短縮・工事費縮減への取組みとしてのVE。
5)工程管理手法としてのCPM。
6)想定されるリスク対策としての代替工法・資材活用の準備。
4.着工前の必須事項抜粋
4-1.設計条件の明示・確認(特に仮設備費等一式表示の内容明示、『「割掛け表」サンプル』参照)
4-2.3社協議
4-3.災害防止協議会の設立
4-4.危機管理体制の確立
「割掛け表」サンプル1 『割掛け表』(全表)
「割掛け表」サンプル2 『単価内訳書』
5.その他、興味を持って欲しいいくつかの事
5-1.設計変更等の正当性・理由付け
5-2.会計検査(外部監査)での着眼点
5-3.「VE」・「提案制度」の有効活用
5-4.NETISの有効利用
5-5.新工法の積算(協会標準見積、数社見積×○○%だけで良いか)
5-6.新技術・話題と成っている業務の把握(業界の動き)、例えば①維持管理・更新技術。 ②無人化施工。 ③防災・減災関連業務(液状化、土石流、深層スベリ等々)。 ④地球環境・異常気象等々。
5-7.現場で役に立ついくつかの事
1)雨の中、コンクリートは打てるか(養生方法、空を見て目を開けられるか)
2)寒中、コンクリートは打てるか(養生方法、日中外気温4℃以上でも夜間は0℃以下)
3)梅雨時の梅雨前線の動き、台風の進路と風向き、土地の人に聞け。
4)簡易な動態観測と一応用例(沈下・水平変位、下げ振りetc。『「双曲線法」サンプル』参照)
5)防災用の土のう袋は何袋必要か(15~17袋/m2)。
6)単位コンクリート当りの鉄筋量目安(ex.スラブ・擁壁≒100~120kg/m3橋脚≒60~70kg/m3、橋台≒30~40kg/m3)。
5-8.イメージアップと労働環境の改善。
5-9.地域の人達とマスコミの事。
以 上
「双曲線法」サンプル
【最後にひと言】
①「QC」は、機械部品の欠損率を低減(品質Q向上)する為に、米国で始まった活動である。その活動を通し、改めて「QCD」の「質」の「価値」に気付き、「質」向上の為の方法・ツールとして「QC(BS・KJ)」がうまくはまった(はめた)のだと考えている。目的が判れば、方法・ツールを随時簡略化(省略)出来る。
②PDCAサークル・BS等を利活用するQC手法は、古い手法と言われるが、現在新しい分析手法として世に出ている手法の原型は、殆どが「QC手法」である。
③身近な管理項目について、実際やってみる事である。只、結果を安易な予測値に求めた活動は意味がない、忖度なしで本音でやり合う事である。
④自分の経験では、1週間毎にデータをとりQC手法による分析活動で、特に工期短縮で大きな成果をあげた例多数である。 今あるのかどうか知らないが、VE提案書作成時も有効(施主の評価が高い)であった。
⑤QC手法と「PDCA」サイクルのコンビネーションは、文字通り「施工(仕事)の質」の良否を左右するツールだと思っている。
【執筆者】
味澤 泰夫(味澤技術士事務所 代表)
技術士(建設・総合技術監理部門)
一級土木施工管理技士
(日本技術士会九州本部/福岡)
【執筆者の経歴】
※本記事のご利用にあたって
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