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蛍光ランプの製造輸入禁止に伴うLED化

~ 一般家庭、商業施設、工場における対応の違い ~

 2023年11月にスイスで開催された「水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(COP5)」で、水銀添加製品である一般照明用の蛍光ランプの製造輸出入を2027年末までに禁止にする事が合意されました。(日本もこれに批准)


 この蛍光ランプ(*注)の製造輸出入禁止によって、まだ使っている蛍光灯(*注)は、主にLED灯(*注)に更新する事になるでしょう。このLED灯への更新をすすめるにあたり、注意する点などが、一般家庭、商業施設や工場、危険物取扱の工場でどの様に異なってくるのかを簡単に説明します。



<一般家庭の場合>

一般家庭においては、灯具は蛍光灯や白熱灯のままだけどランプだけLED化する事も出来る事、灯具ごとLED灯に更新するのも簡単にできる事、灯具も安くなっている事などの理由から、ほとんど影響もなく、そのため製造輸出入禁止に関しての反応は、さほど大きくはない様に見受けられます。


しかし、ランプだけをLED化する場合、もしくは既に交換している場合は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構や一般社団法人日本照明工業会から、各種照明のランプをLED化する際の注意点などが公開されているので、読んで頂く事をお勧めします。

 

一般家庭の照明器具は、引掛けシーリングと呼ばれる電源接続プラグで留められている事が多いため、灯具の交換をするための工事や工具も不要で、踏み台さえあれば簡単に灯具交換は出来ます。そのため、ランプだけLED化して使用するのはリスクが大きいので、特別な事情が無い限り、LED灯に交換することを私は推奨しています。



<商業施設や工場の場合>

商業施設や工場などでは、一般家庭と同様には行きません。


まず、商業施設や工場などには、電気主任技術者などが任命されている場合が多く、このため、必ずと言ってよいほど電気の専門家がその組織体制に組み込まれています。


そのため、蛍光ランプのLED化は、この専門家によって更新や交換の計画が策定される事になりますが、これらの専門家は、前述のランプだけをLED化する場合のリスクに関しても少なからず知見を持っているため、このリスクを許容する決断はされにくくなります。このため、照明器具一式をLED灯に交換する選択をとる傾向は強くなることでしょう。


しかし、商業施設や工場などの灯具は一般家庭とは異なって、引っ掛けシーリングで取り付けられている事は殆どなく、天井埋め込み型や吊り下げ型での取付が主流になっています。


天井埋め込み型や吊り下げ型の照明器具を更新する場合は、有資格者による電気配線の接続変更工事が必要であり、場合によっては天井ボードの交換なども生じます。


また、照明の取付場所も高い場所になり、照明器具の数も多いため、仮設足場まで必要になる場合があります。


さらに、全国的に様々な分野での労働力不足が生じていますが、接続変更工事を行う作業者は、2024年4月から建設業界で時間外の規制が厳格化された事で深刻な人手不足に陥っている状態であり、交換工事を行いたくても作業者が見つからないために実施まで長期間待たされる事態も発生します。


人手不足という事は、労務単価も上昇していきます。このため、商業施設や工場などでは、早めに交換の計画を行い、対応していく事が肝要です。



<危険物を取り扱う工場や店舗の場合> 

 危険物を扱う石油化学の工場などでは、防爆構造の照明器具というものが取り付けられています。器具だけではなく、電気の配線工事も防爆仕様での工事が行われています。


 一般的な事務所や家庭で使われている照明器具と、防爆構造の照明器具の値段は5~20倍くらいもあり、電気工事の材料費も2倍くらいになります。


 

 4階建の工場で100灯くらいの防爆照明がある場合、照明器具の価格だけで、2千万円程になります。


 これに工事費も加わる事になるので、費用を抑えるためにランプだけLEDに交換したくなりますが、前述の商業施設などにおけるリスクの面だけではなく、法令上の問題もこちらでは発生します。

 照明に限らず、防爆の器具は、労働安全衛生規則やその告示で、爆発性や引火性のある危険物を取り扱う危険場所において使用する事の義務や、防爆構造の器具の構造に関しての要求が定められています。さらに、防爆の器具は、その器具の製造販売前に、そのタイプごとに型式検定を受けて合格証を取得しなければならない事が定められています。この型式検定において、防爆の蛍光灯は、使用する蛍光ランプの型式も含めて検定を受けているため、その型式以外の蛍光ランプを使用すると防爆照明として認められないので、防爆蛍光灯の灯具にLEDランプを取り付けると、法令違反になるという事になります。


 すなわち、蛍光ランプの製造輸入が禁止になると、防爆の蛍光灯器具は、更新が必須になり、また更新のための工事も必須になります。


 あまりにも高額な設備投資が必要になるので、数年から十数年での全灯更新を行う計画を立てることになりますが、予備の蛍光ランプは全数更新が終わる分までを見越して準備する必要があります。完了までの期間を長くすれば、蛍光ランプの予備もその期間分確保する必要が出てくるので、全体の工事期間と予備品確保のバランス、更に省エネの効果を考えて計画する必要があります。また、長期の更新計画にするときは、蛍光ランプだけでなく、器具内の安定器に関しても予備品確保を考える必要があるので気を付けましょう。



<まとめ> 

一般家庭において、ランプだけLEDに交換する場合、色々と注意点があるので確認しましょう。

■商業施設、工場などでは、なるべく早くどの様に対応するのか、方針を決め、更新の計画を立てましょう。

■更新の計画は、完了させる年数と、予備品確保のバランスを考慮しましょう。


また、国や地方自治体などで補助金の制度もあるため、利用できるかを確認して、有効に利用しながらLED化を進めて行きましょう。


<注> 

・環境省の表現にあわせて、蛍光灯の管球をランプと表現しています。

・LED灯や蛍光灯は、ランプと灯具を合わせた状態の意味として表現しています。

・LED灯の発光部は、正確には管球ではないのですが、便宜上LEDランプと表現しています。



【執筆者】

福田国際電気技術士事務所

代表 福田 達彦

技術士(電気・電子)

(日本技術士会九州本部/大分)



【専門事項】

エンドユーザー、EPC、メーカーにおいて、国内外の発変電所や化学プラントの電気設備設計・運転・保全の全般に携わってきた。超々高圧から低圧まで、発電・受配電システム全体としてのシステムインテグレーションが得意分野。海外電力機器メーカーとの機器仕様の調整や折衝、プロジェクトマネジメントの知識経験から、電力機器以外の件に関しても中小企業からの相談に対応している。(技術士の他、Project Management Professional、エネルギー管理士、電気主任技術者、電気工事士、パイロットライセンスなど、多種多様の資格を所持)





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