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倫理・法規制と企業活動(技術士の立場としての考察)


<目次>

1.  技術士に求められる技術者倫理

2.  倫理問題の事例研究

3.  技術士として備えておくべき法規制について(技術士1次試験から)



1.  技術士に求められる技術者倫理

倫理は、“自律的で人として守るべき道を示すものであり、徳の判断基準と成り得るものである”とされる。一方、法は社会的営みを円滑にするには欠かせないものであり、仕組みや決まりであると言われている。


社会の営みにおいては、法による社会規範がないと、混乱を招きかねないと言えるが、倫理的見解がないと、人の道として正しい判断や評価の根拠を失いかねないとも考えられる。技術士としては、自身の技術的専門的立場と、人類や人間的な立場の両者とを勘案した判断や評価が必要である。また求められる場合にはその見解を述べることも必要になってくる。以下、事例を参考に、技術士の立場として倫理と法規制について述べる。


2. 倫理問題の事例研究

 倫理的な問題は多様である。興味を持った事例を調査すると裁判となって判決された事例もある。内容を拝見すると参考になることも多い。


2.1 事例1;1995年2月に起こされた“奄美自然の権利訴訟”

 本例は、ゴルフ場開発(住用村、龍郷村)に反対する組織による訴訟である。本来の原告は以下に概略する野生動物(アマミノクロウサギ、オオトラツムギ、アマミヤマシギ、ルリカケス)の4種だが、これらの動物には当事者能力が見られないため、実際の原告は、社団、医師、野鳥観察家、自然物の権利を擁護する運動参加者となっている。従って、当事者の名称は「アマミノクロウサギ こと ○○」等とされた。


・アマミノクロウサギは世界中でも奄美大島と徳之島のみに生息している動物とされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッド・データ・ブック(1990年)では絶滅危惧種に指定されている。

・オオトラツムギは奄美大島のみに生息するヒタキ科ツグミ亜科の鳥で、日本産のツグミ類では最大と言われている。

・アマミヤマシギは奄美諸島と沖縄諸島固有のシギ科の鳥で、全長36cmほどで長いくちばしを土中に刺して、小動物を捕らえ、夜行性・地上性で昼間は林床部でじっとしていると考えられている。

・ルリカケスの全長は38cmほどで、頭部やつばさの大部分と尻部は青紫色、くちばしと翼端および尾端は白色、残りの部分は赤茶色をした美しい鳥と言われている。


 原告は、以下の点で3法令に違反していると主張している。

(1)文化財保護法違反:

アマミノクロウサギは文化財保護法に基づく国の特別天然記念物に指定されている。同じくオオトラツグミ,及びルリカケスも国の天然記念物に指定されている。同法第80条は「天然記念物に関し,その原状を変更し、又は保存に影響を及ぼす行為をしようとする時は、文化庁長官の許可を受けなければならない」と定める。本件ゴルフ場開発により,アマミノクロウサギ、オオトラツグミ,及びルリカケスの保存に影響を及ぼす。にもかかわらず,文化庁長官の許可が得られていないのは、文化財保護法第80条及び107条の3に違反する開発許可である。


(2)種の保存法違反:

オオトラツグミ、アマミヤマシギ、ルリカケスは、種の保存法により国内希少野生動植物種と指定されている。とすれば、各開発業者は「その土地の利用に当たり、国内希少野生動植物種の保存に留意しなければならない」(法34条)。また,「生きている個体は、捕獲、採取、殺傷又は損傷(以下「捕獲等」という)してはならない」。しかし、本件ゴルフ場開発が捕獲等に該当することは前述のとおりである。以上等から、本件各開発は法9条、34条などに違反する違法無効な開発許可であるといえる。


(3)森林法10の2・第2項・第2号違反:

森林法10の2、第2項、第2号では,開発許可の要件を「当該開発行為をする森林の、現に有する環境の保全機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないこと」と定めている。森林の有する環境保全機能からみた場合、本件開発行為により,本件各野生生物種の生息が害されるばかりでなく、本件森林に依存する多くの野生生物の生息をも害する。環境アセスメントが実施されないままなされた本件開発許可は,当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させる恐れがあり、同法10条の2、第2項、第2号に違反する。


判決は.訴訟を起こして以降の約6年後に行われ、原告適格の欠如を理由として却下されている。原告適格とは、“一定の権利または法律関係に関して原告として訴訟を遂行し、判決を受けることができるために必要な適格”と言われている。


本事例からの留意点として、環境に関する事例については地球環境問題を対象とする“環境倫理”の観点、また技術士倫理綱領の第1項(公衆の利益の優先)の観点をもっと重視すべきではないかや、法に抵触しなくても環境倫理上クリアされているか、についても考察する余地がある点と考えられる。


2.2 事例2;2008年2月に起こされた“こんにゃくゼリー死亡事故” 

本例は、凍らせたゼリーを2歳弱の子供に与えたところ、喉に詰まらせ、病院に救急搬送されたが死亡に至ったことから訴訟を起こした事例である。

原告は、本商品は弾力性が強く、カップの形状上、吸い込んで一気に喉に達する危険があることや、危険を知らせる表示が不十分だったこと等を主張した。

判決は神戸地裁が訴訟後約2年4か月後に行い、同商品を冷やすと硬さや付着性が増す等の特性は同商品自体のものであること、また外袋に注意を呼び掛けるイラスト入り警告表示がされていたこと等を理由として、商品にPL法(製造物責任法)上の欠陥は認められないとされた。

その後原告は大阪高裁へ上告した。本商品による死亡事故は、1995年に報告されて以降17件目となっているが、高裁からは設計上の欠陥があったとは言えないこと、また警告表示の欠陥も認められない、との判決が出されている。

PL法における欠陥は通常、①設計上の欠陥 ②製造上の欠陥 ③警告・表示・指示上の欠陥に分類される。よって、本事例を通しての留意点としては、PL事故対策として、技術対策やState of The Art(最新式・最先端・最高水準)の認識・反映と共に、③項の表示や取説類の書類等広範囲な観点に対して十分配慮することが重要だと言える。



3.技術士として備えておくべき法規制について

法令は数多く、多様な法令の把握は困難である。どういった法令に留意すると良いかの判断の一つとして、技術士1次試験で出題される法令にはどのような法令があるかが一つの目安となり得る。

技術士1次試験で出題されている法規制には、1)労働安全衛生法、2)個人情報保護法、3)製造物責任法(PL法)、4)公益通報者保護法、5)知的財産権、6)景品表示法、7)消費生活用製品安全法、8)男女雇用機会均等法 等がある。技術士は、技術士法の他に、これらの法や規制に対する知識も備えておくべきと考えられる。また、機械工学便覧の「β9 法工学」は全10章からなり、この中の9章は“技術者倫理及び資格に関する制度”となっている。これらの書籍も参照することが大切と考える。


【執筆者】

末松技術士事務所

代表 末松 正典

技術士(機械、総合技術監理)

(日本技術士会九州本部/福岡)



【専門事項】

電機企業にて電動機(モータ)の潤滑技術等基礎技術の研究に努めると共に、新しいモータの開発に携わった。また国の支援機関において企業における研究・開発を支援した経験を有する。その後は品質や環境に関するマネジメントシステムの審査を通して企業の発展に資するよう努めている。




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