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何故、IT人材はいつも足りないのか?


<目次>

1.はじめに

2.IT人材不足の正体

3.本当に不足しているのは誰か

4. なぜIT人材は育たないのか?

5.IT人材育成の制度設計に向けて

6. まとめ




1.  はじめに

DXやAIの進展により、「IT人材不足」は近年あらためて強く語られている。経済産業省の試算では、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足するとされている[文献1,2]。こうした数字が示される中で、人材育成の必要性は広く認識されている。

一方で、近年は生成AIの普及により、ソフトウェア開発の生産性が大きく向上しつつある。コード生成やテスト、ドキュメント作成といった作業の自動化が進むことで「人手不足は解消に向かうのではないか」という見方もある。海外では、IT企業におけるレイオフが相次いでおり、その理由として生成AIによる生産性向上が挙げられている。日本国内でも、採用抑制という形で現れているとする見方もある。

それにもかかわらず、なぜ「IT人材不足」は解消されないのか。本当に人が足りないのだろうか。


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2. IT人材不足の正体

 現場の実感として、この問題は単純な人手不足ではない。未経験者や初級レベルの求職者は一定数存在しているにもかかわらず、企業は彼らを「採用できない」と判断している。この一見矛盾した事実こそが問題の出発点である。

 これは量的不足ではなく、スキルや経験のミスマッチによって生じる質的不足である。企業は即戦力を求める。一方で個人は、まずは経験を積ませてもらい、スキルを身につけたいと考える。このすれ違いは、どちらか一方の問題ではなく、構造的に生じている。実際の求人でも「実務経験3年以上」「設計経験」などが求められることが多く、未経験者が入り込む余地は必ずしも大きくない。IT業界は技術の変化が激しく、数年前の主流スキルがすぐに陳腐化する。企業としては教育に投資しても、その成果を回収する前に人材が転職してしまうリスクがある。その結果、「育てるよりも、できる人を採る」という方針が合理的に見えてしまう。

 こうして、「育てない企業」と「育ててもらえない個人」という構図が固定化し、結果としてIT業界では人材不足が慢性化している。



3. 本当に不足しているのは誰か

 では、どのような人材が不足しているのか。

 経済産業省・IPA(独立行政法人情報処理推進機)の議論では、単なるITスキル保有者ではなく、「DX推進人材」の不足が指摘されている。これは、単純作業者としてのプログラマーやシステムエンジニアではなく、業務やビジネスの文脈を理解しながら、デジタル技術を活用して変革を主導できる人材を指す(図1)。


図1 デジタル社会における人材像[出典:文献3]

 IPAが2011年に公開したITスキル標準(ITSS)でいえば、指示のもとで作業を行うレベルではなく、自立して業務を遂行し、さらに応用的な判断ができるレベル、すなわちLv3〜4に相当する中堅層である。

図2 ITスキル標準 V3[出典:文献4]

 この層には、単なる技術力に加えて、複数の技術領域を横断する理解や、システム全体を見渡した設計力が求められる。初級人材は比較的短期間で育成可能だが、中堅層のレベルに到達するには一定の基礎知識・実務経験と、高度な応用能力が不可欠である。

 生成AIは、こうした構造にも影響を与え始めている。実装作業の効率化により、初級レベルの技術者に任せられてきた単純作業の生産性は向上する一方で、何を作るべきかを定義し、システムとして成立させるための設計や判断の重要性はむしろ増している。

 結果として、DX推進人材に求められる能力の水準は下がるどころか、むしろ引き上げられている。この中堅層の供給がボトルネックである限り、人材不足は形を変えながら継続する。



4. なぜIT人材は育たないのか?

 ここで、「育成の仕組み」が不在あるいは機能しなくなったという問題が浮き彫りになる。

 従来は、半年程度の新人研修や現場でのOJTを通じて時間をかけて人材を育てるモデルが機能していた。しかし現在は、技術の変化が速すぎるため、現場任せの育成では追いつかない。また、企業は即戦力を求め、個人は短期的なスキル習得に偏りやすいため、体系的な成長の道筋が描かれにくい。

 さらに、スキルの評価方法にも課題がある。資格試験は知識の測定や求職者の足切りには有効だが、実務能力や設計力といった中核的な能力を十分に可視化できているとは言い難い。その結果、「どの人材がどのレベルにあるのか」が把握しづらく、適切な育成や配置が難しくなる。

 実際、政策レベルではすでに方向性は示されている。人材を職種などの人材類型ではなくスキルで捉え、学び直しを前提とし、能力を可視化していくという考え方である[文献5]。IPAが実施している情報処理技術者試験においても、CBT方式への移行とともに試験体系の見直しが現在進められており、従来の「プロジェクトマネージャ」「ネットワークスペシャリスト」などといった人材像ベースからスキルベースへの転換が模索されている。

 しかし、これらについても現場においては十分に機能しているとは言えない。つまり、「何をすべきか」という要件については経産省やIPAから共有されているが、個々の企業や人材においては「どのようにキャリア設計していくか」が曖昧な課題として残されているのが実態である。



5. IT人材育成の制度設計に向けて

 この状況を踏まえると、IT人材の育成は自然に任せるものではなく、意図的に設計すべき対象として捉える必要がある。特に重要なのは、成長過程の段階(キャリアパス)を明確に定義し、それを外部人材市場とも接続可能な形で示す視点である。いかに未経験者や初級技術者を中堅の入口へと引き上げ、いかに高質な業務経験を積ませ、いかなる能力をいかなるタイミングで獲得させるのか。この道筋が明確でなければ、DX推進人材は安定して育たない。

 また、評価の仕組みも同時に整備する必要がある。知識だけでなく、実務における成果や役割を含めて能力を把握しなければ、適切な配置や次の成長機会につなげることができない。

 さらに、育成は個別の企業や個人の努力だけで完結するものではない。技術やスキルの標準化が進む中で、業界全体として共通の基準を持ち、学びや経験を横断的に活用できる仕組みが求められる。

 IT人材不足の問題は、量的な人手不足の問題ではなく、人材の質を高める成長プロセスが社会的に設計されていないことに起因している。IPAにおいては海外のベンダー試験などを参考に「マナビDX」「デジタル人材スキルプラットフォーム」といったプラットフォーム構築を進めているが、IT人材や企業に十分浸透しているとはまだ言えない。



6. まとめ

 IT人材不足とは、単純な人手不足ではなく、人が育つ仕組みが十分に機能していない問題である。生成AIによって作業の効率化が進んだとしても、何を作るべきかを定義し、全体を設計し、価値へと結びつける中堅人材の重要性は変わらない。むしろ、その役割は高度化している。

 技術の進化が続く限り、この問題は自然には解消しない。だからこそ、個人の努力や企業の現場に任せるだけでなく、成長の道筋そのものを設計し、社会全体で支える視点が必要である。

 それが不足しているが故に、IT人材はいつも足りないのである。



<参考文献>

1) みずほ情報総研株式会社:IT人材需給に関する調査 調査報告書p.17 2019

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

2) 日本経済新聞:「IT業界の人材不足とは 2030年に最大79万人」 2026.1.1付「きょうのことば」, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2425Y0U5A221C2000000/

3) 経済産業省:「デジタル時代の人材政策に関する検討会 第2回実践的な学びの場 WG」2021

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/jissenteki_manabi_wg/002.html

4) 独立行政法人情報処理推進機構 :ITスキル標準 V3 2011

https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/itss/download_v3_2011.html

5) 経済産業省:Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会 報告書 2025.5

     -「スキルベースの人材育成」を目指して –

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/dxjinzaireport_202505.pdf



【執筆者】

株式会社ロバストプラン

代表取締役 山田暁通

技術士(情報工学)

(日本技術士会九州本部/福岡)



【専門事項】

●情報システム企画支援(情報システム戦略策定、全体システム化計画策定)

●Webシステムにおける方式設計、データベース設計、性能試験

●クラウドおよびアジャイルを前提とした中小規模システムの要件定義および開発管理

●情報技術を活用した業務効率化およびリモートワーク環境の構築


【資格等】

情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト など)


※本記事のご利用にあたって

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