第51回技術士全国大会
技術士資格の広報 New
技術士試験合格者祝賀会
熊本地震復興支援会議
2017九州北部豪雨災害への対応
行事一覧
会員専用

固相焼結の3段階と焼結助剤・粒成長抑制剤の応用

~ 焼結を進める焼結助剤・粒成長を抑える粒成長抑制剤 ~


金属の粉末を焼き固める粉末冶金という製造法があります。以前に固相焼結、液相焼結、溶浸法の概要を説明をしましたが(技術士の窓 2025年6月1日)、今回は固相焼結の緻密化がどのように起こるのかについて説明し、さらに低温で焼結を助ける焼結助剤、焼結時に粒子の粗大化を抑える粒成長抑制剤の働きについても説明をします。

 押し固められた直径1μm程度の微細な粒子が、融点より低い固相状態でも、原子を移動させながらより安定な状態である塊(インゴット)に変化していく焼結現象のイメージをもっていただければ幸いです。




固相焼結の駆動力

直径1μm程度の粒子からなる粉末を押し固めて、絶対温度で融点の8割ぐらいの温度まで上げると、粒子同士が融合して金属の塊を得ることができます。これを固相焼結と言います。

焼結を説明するうえで、知っていただきたいのは、粒子表面は内部に比べて自由エネルギーが高いことです。固体内部の原子は上下左右からお互いに引き合って自由エネルギーが低い状態になっています。表面では空間側に原子がないため、表面の原子は隣接原子のある横方向か内部に向かってだけ引かれており不安定な状態です。ですから、自由エネルギーが高い表面がなるべく少なくなるように変形します。二つの水滴が合体して一つの球形になるのがわかりやすい例です。


直径1μmの微粒子は直径1mmの粒子に比べ、同じ重さであれば1000倍の表面積になります。絶対温度で融点の8割まで温度が上がると、固体であってもある程度原子の移動が可能となり、水滴と同じように表面が小さくなるように合体、つまり緻密化が起こります。これが焼結の駆動力と呼ばれるものです。


グラニュー糖をお皿に盛り上げたようなとき、砂糖の粒子と空隙の比率は1:2(粒子が33%、空隙が67%)ぐらいで、金属の粉末でも同じぐらいです。粉末を押し固めたものを圧粉体といいますが、圧粉体の粒子と空隙の比率はほぼ1:1(粒子が50%、空隙が50%)で、うまく焼結すれば粒子がほぼ100%、わずかな空隙が残る程度まで緻密化します。


そのとき、焼結体の寸法(縦、横、高さ)は圧粉体の約80%になり、これは80%×80%×80%=51%と圧粉体のうち粒子だけの体積に相当します。


<固相焼結の機構 初期段階、中期段階、後期段階

 ここから固相焼結がどのように進むのか、その機構について説明していきます。

 

 図1に示すように固相焼結には、粒子同士の接触部(ネック部)が成長する初期段階、粒子の中心間の距離(粒子間距離)が短くなり空隙が分断されて孤立した閉気孔となる中期段階、成長したネック部である粒界が空隙を吸収しながら移動して大きな粒子が小さな粒子を取り込んでいく後期段階に分かれます。


 焼結を空隙の変化に着目すると、初期段階では空隙が表面から内部までつながっている開気孔ですが、中期段階では収縮にともない粒子の頂点部分に孤立した閉気孔となり、後期段階では移動する粒界に閉気孔が吸収されて消失し焼結が完了します。


 

図1 焼結の初期、中期、後期段階(原著では図2.1、2.2)

出典:吉田英弘:”焼結の基礎 理論的背景から実際まで Ⅱ.焼結緻密化の速度論”、

まてりあ、58(2019),677.


焼結の初期段階では図2にあるように、粒子の接触部分に原子が移動して、ネック成長、粒子間距離の短縮が起こります。粒子の接触部分の表面は負の曲率(表面が凹んだ状態)になっており、表面積が少なく表面エネルギーが小さい平らな表面になるように、正の曲率(表面が凸の状態)を持った粒子本体から原子が移動してきます。


原子の移動するルートは表1に6通り上がっていますが、焼結の初期段階では、①表面拡散(粒子表面で拡散)、③蒸気輸送(凸部から蒸発、凹部に凝縮)、④粒界(粒子の接触面)拡散が主な経路と言われています。


前に述べたように表面にある原子は近接原子のある内部か横方向にしか引き合っていないので、六方から引き合っている内部の原子より移動しやすい状態にあります。そして、凹んだ表面より凸部の表面の方がより近接原子が少なくより不安定な状態にあります。


よって、凸部の表面から凹んだ表面へ原子の移動が起こります。移動の経路は、原子の移動が起きやすい表面での拡散(①)、さらに、融点に近い温度にありますので、凸部の原子が蒸発して少しでも安定な凹んだ表面(粒子の接触部分)に凝縮する蒸気輸送があります(③)。


また、粒子が接触している粒界部は、結晶の向きがずれているので、結晶格子が乱れています。結晶格子が乱れているので、表面と同じように原子の移動が起きやすい状態になっており、原子の移動経路となって凹んだ表面部に原子が移動していきます(④)。さらに、粒界は原子の移動の経路となるだけでなく、粒子内の原子空孔や粒子間の空隙を吸収消滅させるシンク(Sinks)になり、焼結の中期、後期段階では緻密化に大きく影響することを付記しておきます。


 

図2および表1(原著では図10.21および表10.1)

出典:Kingery他著、小松他訳、「セラミックス材料科学入門 基礎編」

内田老鶴圃新社、昭和55年.


以上のように、焼結の初期段階では、移動経路が四方を同じ原子で囲まれた中を移動する体積拡散である②、⑤、⑥より、原子の移動が起きやすい①、③、④が主な移動経路となります。


しかし、①や③では表面の形は変わりますが、粒子の中心間の距離(粒子間距離)は変わりません。焼結が進むと、粒子間距離が小さくなる(緻密化が進む)④や⑤が重要性を増します。初期段階でネックが成長することで接触部分(粒界)の面積が大きくなり、粒界を始点とした物質移動が盛んになって中期段階で緻密化が進み空隙が閉気孔となります。そして焼結の後期段階では粒界が閉気孔を吸収しながら移動し、粒成長と緻密化が進んでいくと考えることができます。


ネックの凹部が平面になろうと働く表面張力は、粒子間距離を縮めようとする力になり粒界部分に圧縮応力を生じます。これにより④や⑤が加速されてより緻密化が進みます。


粉末に機械的に圧力をかけて焼結するホットプレス法では、圧力による粒子の変形(粘性流動)に加えて、粒界部分の圧縮応力が高くなり、④や⑤が大きく加速されて無加圧の焼結では焼結が難しい物質(高融点のセラミックなど)でも緻密な焼結体を得ることができます。


焼結の中期段階で粒子間距離が縮まるとき、前に述べたように、粒子の間にあった空隙は粒界部に吸収されて圧粉体の密度は上がっていきます。さらに、焼結の後期段階では、図3のように小さい粒子の凸型の粒界は収縮して消失し、大きな粒子が小さな粒子を取り込んで粒成長が進んでいきます。粒成長にともない粒界が移動する際に、粒子内に取り残されていた閉気孔を粒界がシンクとして吸収消滅させることで緻密化がさらに進みます。


ここまで固相焼結の機構を初期、中期、後期段階に分けて説明しました。


 

図3(原著では図10.4)

出典:図2および表1に同じ



焼結を促進する焼結助剤 タングステン(W)とニッケル(Ni)の場合

Wは融点が3400℃程度とされ、金属単体ではもっとも融点が高く、白熱電球のフィラメントに使われてきました。しかし、Wの焼結には高温が必要であり消費電力も大きくなります。また直接通電で大電流を流して昇温するため、電源の制約で大きなブロックを作るのも困難です。もっと低い温度で焼結できないかという観点から、白熱電球のフィラメントより低い温度で使用されるスポット溶接の電極などには、主にNiを主成分とした焼結助剤を添加した低温焼結W合金があります。


固相焼結の機構で説明したように、W粒子表面での物質移動(拡散)やネックが成長した粒界部の物質移動(拡散)を速めることができれば、純粋なWより低い温度で焼結を進めることができます。


NiはWより融点が低く(1455℃)、液相のNiはW粒子の表面をよく濡らし(W粒子の表面に薄く広く広がる)、さらにNiにWは溶け込みますが、WにはNiはわずかしか溶けません。すなわち、Wに数%のNiを加えて、Niの融点ぐらいの温度に保つと、NiはW粒子に溶け込まず、W粒子の表面にNiの薄い膜を作ります。この膜を経由してW原子がネック部へ速やかに移動します。W粒子の接触部でも粒界にNiが存在することでW原子や空孔の移動が速くなります。


結果として、低温で焼結が進み純粋なWでは得られないWの塊を得ることができます。Niが固相であってもW原子の移動が速くなりますが、液相になった場合は液相焼結になり、W粒子の再配列が起きて焼結の初期段階から大きな緻密化が起きます。WにNiと銅、鉄などを加えたヘビーアロイはスポット溶接の電極や小型の重りに使われています。今は見かけませんが、腕時計がゼンマイの時代には自動巻きの重りに使われていました。



<粒成長抑制剤 アルミナ(Al2O3)とマグネシア(MgO)の場合

 前項では、焼結を促進する焼結助剤について説明しましたが、この項では逆に粒成長を阻んで微細な組織を得る粒成長抑制剤について説明します。


 固相焼結では、初期段階ではネックの成長が起きますが、後期段階では粒界の移動をともなう粒成長が起きます。緻密化と粒成長は異なるプロセスですが、実際には並行して進むので緻密化した焼結体は粒成長を伴うことが普通です。


 焼結時にあまりに粒子が大きくなると、硬さや強度は低下してしまいます。そこで、粒成長抑制剤により粒子の粗大化を阻止することがあります。


 粒成長抑制剤の働きは、粒界の移動を阻止して大きな粒子が小さな粒子を吸収してしまう粒成長を抑えることにあります。粒径1μm程度のAl2O3をホットプレス(粉末を型に入れて圧力を加えながら加熱する焼結方法)すると粒径が数10μmになることがあります。このようなAl2O3は硬さが低く、強度も下がります。そこでAl2O3のホットプレスでは一般にMgOを添加します。


 MgOはAl2O3の粒界に単体またはAl2O3と固溶したスピネル(MgAlO4)という化合物になって粒界移動の障害物になります。結果として粒成長を抑制することになります。


 筆者の経験ですが、新入社員に焼結を体験してもらうために、Al2O3だけの粉末とAl2O3に数%のMgOを添加した粉末を同時にホットプレスして、得られた焼結体の硬さと曲げ強度を測定してもらいました。硬さと強度にはっきり違いがでて、破面を走査型電子顕微鏡で観察すると粒子径に大きな差があることがわかりました。焼結の過程や粒子径と硬さ・強度の関係を実感してもらえたよい研修になりました。




<まとめ>

・焼結は自由エネルギーが高く不安点な表面を減らすために、微粒子が合体することが緻密化の駆動力となっています。

・固相焼結は、表面拡散や蒸気輸送、粒界拡散により粒子の接触部であるネック部が成長する初期段階、ネック部が成長して生じる粒界に空隙が吸収され閉気孔となる中期段階、大きな粒子が小さな粒子を吸収する際に粒界が移動し残留した閉気孔を消滅させる後期段階の3段階で進みます。

・焼結に必要な物質移動を容易にすることで低い温度で塊を得る焼結助剤、粒界の移動を妨げることで有害な粒成長を起こさせない粒成長抑制剤が実際の製造に用いられています。


<参考文献>

焼結について図や写真と数式を使った詳しい説明があります。

・Kingery他著、小松他訳、「セラミックス材料科学入門 基礎編」内田老鶴圃新社、昭和55年.

大部な本ですが、応用編と合わせて結晶の構造からセラミックスの各種の性質まで体系的にまとまった基礎的な教科書です。

・吉田英弘: ”焼結の基礎 理論的背景から実際まで Ⅱ.焼結緻密化の速度論”、まてりあ、58(2019),677.

「まてりあ」は日本金属学会の会報であり、講義ノートとして4回連載で焼結の手法や緻密化について説明してあります。



【執筆者】

高嶋中小企業診断士事務所

代表 高嶋 好夫

技術士補(金属部門)

(日本技術士会九州本部/福岡)




【専門事項】

金属材料メーカーで超硬合金、セラミック材料の開発、タングステン系接点材料・タングステン製品の製造に携わった。粉末冶金を適用する材料開発のほか、管理会計・原価管理に関心がある。経営コンサルタントの資格である中小企業診断士でもあり、中小企業の事業計画作成支援なども行う。(技術士補の他、中小企業診断士、第三種電気主任技術者)




※本記事のご利用にあたって

本記事の内容は執筆者個人の見解に基づくものであり、日本技術士会の公式見解ではありません。また、記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。ご利用者様自身の判断と責任において、ご活用頂くようお願いいたします。