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途上国の排水処理促進による水衛生・環境改善モデルの提案


<目次>

1. はじめに

2. モデル概要

 (1) モデル目的

 (2) モデルフロー

 (3) 収支予測

3. 各種構造と効率

 (1) 事前固液分離

 (2) 浄化槽

4. その他

 (1) 養魚、畜養種

 (2) 養魚加工

 (3) 途上国都市部の下水道

 (4) なぜ『福島』か





1.  はじめに

途上国の農村では下水道未整備が多く、浄化槽の普及も遅れている。筆者もカンボジアに20年以上前、青年海外協力隊(プノンペン市水道局)として滞在したが、最大の原因は、下水道は多大な公的資金投入が必要で、技術・時間が必要なことである。また、浄化槽は、個人が原則導入するが、費用は原則自己負担であり、浄化槽がお金を生まないことによる。


どのような場所もそうであるが、特に途上国農村では日本の技術・製品をそのままもってきても失敗することが多く、このことが多くの日本企業の海外進出を不成功に終わらせている原因の一つと言える。既存の技術・製品一辺倒でなく、現地の風習・文化を取り入れ、我々日本側が躊躇する内容でも、やってみることが重要と考える。


今回、ここで示す内容は、協力隊員としてカンボジア語を話し、現地で生活をし、現地のものを飲み食いした結果得られた現地の風習や文化に対する知識・考え方を基に、日本の水処理技術に取り込み、農村における水衛生・環境改善の方策を立案したものである。





2. モデル概要

(1)モデル目的

 途上国農村住人に、水処理は衛生・環境改善だけでなくお金を稼ぐ手段にもなりうる、という概念を

植えつけることが目的である。

 このことによって、途上国農村において、水処理による水衛生・環境の改善がインセンティブを伴っ

て促進されることを狙っている。


(2)モデルフロー

図1に示す。


図1 モデル概要(月刊技術士2025.4月号掲載)

 途上国農村で集合処理を行う。すなわち、一定戸数(130軒以上、650人以上想定)あるいは、学校などを対象とした集合処理である。

 工場排水などし尿・生活雑排水以外は流入しないものとする。トイレットペーパーは途上国風習として、日本のようにトイレ流しではなく、備え付けゴミ箱に使用済みペーパーを捨てる。なお、トイレ洗浄には次亜塩素酸などの無機化合物は原則使用しない。

③ 排出源から500m以内に本処理装置を設けることが望ましい(長いと糞分など固形物が細粒化するため)。

④ 事前固液分離板で、し渣(糞分+台所野菜カス他)とその他液体分を分離する。

⑤ し渣分は直下に落下し、設けてある養魚槽に入る。

⑥ フナなど現地で残飯などを食べる魚にし渣分を食べさせる。

⑦ 分離液体分と養魚槽水を浄化槽で処理する。し渣分離するため、有機物が尿量に比較して少ない。このため、脱窒は困難と推定される。(デメリット、ただし、エコサントイレなどで事前に尿分離すると、尿でさえ、畑地肥料になる→途上国窒素肥料高騰状態に対して貢献できる)

⑧ 養魚した魚を加工して家畜餌にする。ミンチにして、骨・内臓も餌にするか、そのまま供するかは現地の手間人員状況、家畜販売値とコストの差額の利益度合などを勘案して決める。ただし、いずれの場合でも病原菌連環防止のため、魚は加熱する。

⑨ 処理水は放流するか、トイレ循環して中水で使用するかはコストを比較して決める。ちなみに処理後の廃棄物は、農地還元によって、農作物の肥料としての転用が可能となる。


(3)収支予測

収支は各国における家畜売価、運送コストなどに大きく依存するが、おおむね130軒に1軒は専業で生活できると試算している。この1軒は専業のため、浄化槽や水槽、家畜場の監理はもちろんであるが、定期的な各戸のトイレ清掃を行うことによって、残りも利益を享受できる(途上国トイレは家屋外にあることが多く、住民不在時でも清掃がある程度可能)。


 なお、試算は糞便のみのため、上記のようにエコサントイレ(公益社団法人 日本国際民間協力会 NICCO https://kyoto-nicco.org/africa/ecosan.html)を使って尿分も有効利用できれば、さらに必要軒数は減少できる。また、固液分離効率を上げても同様である(現行想定70%)。




3. 各種構造と効率

(1)事前固液分離

 排水吐出口に水平に対して概ね60°傾斜格子板を設置する。格子角は5~10mmとし、格子棒は上面を水平棒として、回転できるようにする。これにより、糞分などの固形物が落下してきた場合、速やかに格子板下部に落下できる。格子板下は水槽とし、落下糞分を養魚種が摂食する。なお、格子を通過した、尿などの液体分や微細糞分は受水装置を経由して、浄化槽に移流する。水槽の溢水分も浄化槽に移流し。併せて、浄化槽で処理される。


(2)浄化槽

 設置集落の人数に依存する。上記のように130軒なら、日本では各戸5人で計算し、対象浄化槽は5×130で650人槽である。ただし、事前に糞分をある程度除去するが、尿自体のBODが高いため(文献による差が大きいが概ね10000mg/L以上)、浄化槽の大きさはこれより若干小さくなる程度である。このため、浄化槽の大きさとしては日本と同レベルでよいと考える。

 処理方式は、担体流動槽+生物ろ過槽方式が、メンテナンスや調整が容易で、処理水質も安定していることから、本法を中心に選定する。なお、FRP製とする。




4. その他

(1)養魚、畜養種

 現地魚種を用いることで、生態系を保全する。カンボジアでは残飯、糞処理魚にはフナが多いようである(インドネシアではレレ(なまず))。畜養は豚またはニワトリとする。牛は反芻胃があるなど、草食性であるから除外する。ニワトリは魚をよく摂食する上に、イスラム教国でも利用可能となる。ただ、非イスラム教国では豚はよく食されニーズも高い上に、売価も比較的高い。


(2)養魚加工

 糞便由来の病原菌連環増殖防止のため、一旦加熱滅菌が望ましい。また、ミンチ状にすることで、骨などの残存物が生じずに、その処理経費を節約できる。また、骨なども摂食することになるため、家畜健康を保持できる。


(3)途上国都市部の下水道

 写真は20数年前にカンボジアプノンペン市に住んでいた時の下水道状態である。



図2 20年ほど前のプノンペン市住宅近くの下水道状況

左上は周辺のごみが下水升に流入状況、右上は升における汚泥堆積状況

左下は汚泥分が沈降して上澄だけの状態 右下はスカム浮遊状態


以上より、下水路・升などは外部からのごみ流入措置をとらないと、資源になるし渣分の有効な分離ができないことを意味すると共に、分離は早くしないと滞留によって沈殿・細粒化することを示唆している。


(4)なぜ『福島』か

 当モデルは月刊技術士で掲載される時に『福島汚物循環モデル』(通称『福島モデル』以下同じ)としている。筆者は兵庫県出身であるが、高校は転校で福島県いわき市の学校を出ている。ここでは人生の師や友人に恵まれ、今技術士として活動できている基本が、ここで養われた。その福島は原発事故がデジタルタトゥーになっている。これを減らすには、よいことで上書きすることであり、その一助になればと思い、本モデルに『福島』の名前を拝借した。福島は農林水産業・鉱工業・商業・歴史観光業などがバランスよくあり、日本の縮図県とも言え(しかも東北第2人口県)、さらに東京からも行きやすく、一度旅行をお勧めする(いわき市は日本でのハワイアンダンス発祥の地であり、スパリゾートハワイアンズ(旧常磐ハワイアンセンター)がある)。


本記事の内容については、ご利用者様自身の判断と責任において、ご活用頂くようお願いいたします。日本技術士会が本記事の正確性や有用性等を保証するものではありません。




【執筆者】

株式会社アイデアマーケット(住所:福岡市南区柏原3-6-14)

代表取締役 赤石 維衆(あかいし これひろ)

資格:技術士(総合技術監理、衛生工学水質管理、建設環境)、環境計量士(濃度)、浄化槽管理士、浄化槽設備士

(日本技術士会九州本部/福岡)



【専門事項】

排水処理技術(浄化槽含む)開発設計・施工管理・維持管理、河川・湖沼水質解析、簡易浄水装置開発設計、海外水ビジネス





※本記事のご利用にあたって

本記事の内容は執筆者個人の見解に基づくものであり、日本技術士会の公式見解ではありません。また、記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。ご利用者様自身の判断と責任において、ご活用頂くようお願いいたします。