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サービス業へのIEとコンジョイント法の適用


<目次>

1.  はじめに

2.  サービス業の生産性向上への工学的アプローチ法について

3.  サービス業の改善活動のポイントのリストアップ

4.  業務の見える化、プロセス改善(業務の見直しの例)


1.  じめに

生産性向上が社会・経済問題の話題になって久しいが、製造業では生産性向上は進んでいるが、サービス業ではまだまだ不十分であると言われている。サービス業が製造業と異なる点は、サービスの提供と消費の不可分性及び同一時刻である同時性、またサービスが製造業のように在庫出来ない消失性にある。この為、資本装備率が低いことも原因であるとも言われている。


一般に産業界で用いられる労働生産性の定義として、以下が用いられている。


        労働生産性 =付加価値/労働力


この労働生産性を向上させるには、分母の投入労働力を小さくし、分子の付加価値を増加させねばならない。 


経済産業省が『中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン』の中で小売・サービス業における生産性向上策として、図1のように示している。中小企業385万社の約8割を占めるサービス事業者が生産性の向上に取り組めるよう、生産性の向上を「付加価値向上」と「効率の向上」の2つに大別している。


図1 サービス業の生産性向上の概要図


これを具体的に解釈すると次のように考えることができる。分母に関しては、サービスを提供するプロセス(時間)の短縮化(効率化)が該当する。そのための手段として、宣伝活動、来客獲得業務の効率化(システム化等)及び、接客業務の効率化(人的作業の効率化やシステム化)があげられる。


一方、分子の付加価値向上策については、その店舗や施設の独自性(場所や環境、雰囲気、サービス内容、新規性や地域性、異業種や他店との提携による付加サービス戦略など)を発揮して顧客満足度を上げ、リピーターや新規顧客を増やすことが対策に相当する。

 



2. サービス業の生産性向上への工学的アプローチ法について

2.1 IE手法とは

 IEIndustrial Engineering)は、特に生産現場での各プロセスの作業を分析し、属人的要素を極力なくした最適、合理的な作業に改善するための科学的・工学的アプローチ手法である。日本ではムリ・ムダ・ムラを無くした標準時間の設定などの手法として、工場現場を中心に戦後の高度経済成長を支える手段の1つとして精力的に採用されてきた。これをサービス業の中の、人が介在するプロセスに適用することは有効であると考えられる。従って、生産性の式の分母を小さくする手段として、本稿ではIE手法の適用を提案する。


 一方、サービス業の付加価値向上として、顧客満足度の向上として満足度調査を基にした新規サービスの取り組みも進んでいる。この満足度調査方法として科学的・工学的アプローチとしてコンジョイント分析手法が進んでいる。


具体的な事例でのIE手法の応用を考える。


定番の喫茶店での朝食のブレックファーストサービスの提供を考える。

ブレックファースト(3分ゆで卵、コーヒー、トースト)サービス提供とはサービス内容 (時間:一定時間内、品質:熱いまま,コスト:安く)が重要である。


このブレックファーストサービスには生産的活動には3つの基本作業がある:


 ①プロセス(加工・処理)

原材料を変化させる(ex. 卵をゆでる)

 ➁アセンブリー(組み立て・まとめ上げ)

部分部分を集めてひとつの新しいまとまりのあるものにする(ex. ゆで卵・トースト・コーヒーをまとめて朝食とする) 

  テスト

ex. コーヒーに湯気が立っているか、トーストがこんがり焼けているか)


制約的(リミッティング)ステップという取り掛かる作業の全体的な形を決める中心的なステップ最も重要不可欠なステップ(ゆで卵)を中心に流れを計画し、他のステップを処理時間に応じてずらすことが重要である


ブレックファーストサービスとは、朝、喫茶店に入った顧客から注文を受けて、暖かいトースト、ゆで卵、そして香り立つ暖かいコーヒーを出来るだけ速やかに、そして、低コストで提供することである。このブレックファーストの加工ステップで最も手間が掛かる、コストが掛かるステップをリミティングステップとして中心的に据えて考える。下図に卵をゆでるステップをリミティングステップとした例を示す。

図2 ブレックファーストサービスの加工プロセス例

 図3 ブレックファーストサービスのIE手法の各分析法


IE手法についてもっと詳しい内容を下記に箇条書きした。


1. IEの基礎となる作業研究

2. 作業研究に必要な工程分析

3. 要素動作改善のための動作分析

4. 動作経済の原則

5. 標準時間の設定

 

サービス業でIEを実施することで、サービスの品質や効率を向上させることができる。また、顧客の満足度や忠誠度も高めることがでる。サービス業でIEを実施する際には、サービスの特性や顧客のニーズに応じて、適切なIE手法を選択することが重要である

図4 IE分析での工程分析の内容


2.2 コンジョイント分析(Conjoint Analysis)とは 

コンジョイント分析は、主にマーケティング分野で使用されている統計手法である。コンジョイント分析(離散選択モデル)は、サービス、自動車、電子機器、ソフトウェアなど、広範囲の業界で人気がある。コンジョイント分析は、人々が製品を購入する際に行う選択を正確に説明し、予測することができるため、多くの企業がこの手法を定期的に使用している。


コンジョイント分析は、製品だけでなく、オプション機能の価格設定にも使用され、新製品開発においては、最適な機能とメリットの組み合わせを決定する。また、顧客ニーズの変化に対応する必要がある既存製品にも適用できる。


 顧客が商品を選択する際、商品のこれが決め手というものがあることはまれで、多くの場合、絡み合う複数の要素を勘案して商品を選択していると思われる。顧客に好まれる商品を設計するにはどうすればいいのか、商品の構成をどうすればいいのか、この問いに対する答えの一つが、コンジョイント分析である。


 コンジョイント分析では、商品選択に影響を与えると思われる複数の要素(要因という、例えば形、色、重量、機能、価格など)に関して、 例えば、形であればどんな形(水準という、大型、中型、小型など)にするのがいいのか、色であればどんな色にするのがいいのかなど、これらの要因の水準の複数の組み合わせからなる商品を顧客に提示して、それぞれを評価し、その結果をもとに重回帰分析を行って顧客選好の視点から商品の要因の重要度(影響度、効用値)を示す。


 さらに、商品の要因ごとの好ましいと思われる水準の組み合わせを提示する。つまり、コンジョイント分析は、商品の要因をそれぞれ個別評価するのではなく、商品の要因の水準の組み合わせの評価をもとに好ましい商品の要因の水準(商品コンセプト)を決める手法である。

 



3.サービス業の改善活動のポイントのリストアップ

3.1.整理整頓

改善の現場では、「整理整頓」が基本で重要である。整理と整頓とは意味が違う。「整理」は、必要なものと不要なものと分けて、不要なものを捨てること。


「整頓」とは、必要なものが必要なときにすぐ使えるよう、置き場や置き方、量を決め、活用しやすくすること。倉庫の棚にラベルを張り、在庫量などを明示することである。


これに「清掃」「清潔」「しつけ」を加えると「5S」となる。

 

3.2 分析結果の定量化

 改善のあらゆる段階において大切なのは、分析した内容や目標、成果などを、できるだけ数字に置き換える。定量化もしくは数値化とも言われる。定量化の利点は多い。まず、あいまいだったものを数字で示すため、誰でもひと目で分かる。改善すべき問題点がまさに一目瞭然になる。成果を確認しやすくなることも利点。目標との差が明確になり、それがさらに改善を進めるモチベーションになる。

 

3.3 標準化(標準時間の設定)

作業標準作りは、1.標準化する作業を決める、2.作業プロセスを分析する、3.標準時間を決定する、という段階で進める。作業プロセスを分析する段階では、作業を分解・整理すると共に「カン・コツの洗い出し」や「動作の無駄の見直し」が重要になる。「カン・コツ」は言葉に表せない暗黙知であるが、ビデオ分析で形式化することで、高い技術・技能を誰もが使えるようにする。

 

3.4 問題を階層化して整理

改善は、現状分析で把握した問題を深掘りし、改善点を見つけ出すところから始まる。そのときに有用なのが、ロジックツリーである。ブレーンストーミングやアンケートで確認できた問題を階層ごとに分類・整理していく。図解することで、個別の論点が絞られ、具体的な改善点も見えやすくなる。売上向上という課題の場合、顧客の購買行動に応じた階層を設定し、そこに求められる要素を分類する。


機械や部品を扱う製造業の生産現場と違い、サービス業は複数の従業員が連携し、顧客サービスを実現することが多い。そのため、従業員同士が意思疎通を図るための仕組みが生産性向上の鍵を握る。サービス業の改善のためには、数値的に生産性を上げながら、従業員の不安や不満を解消し、働きやすい職場環境を作る。




4.業務の見える化、プロセス改善(業務の見直しの例)

4.1「異業種の視点で「やめる仕事」を発見し、効率性向上」


4.2IEの活用」


【執筆者】

小柳労働安全コンサルタント・技術士事務所

代表 小柳 嗣雄

技術士(化学、総合技術監理)

(日本技術士会九州本部/福岡)



【専門事項】

化学工場にて電気・電子部品用機能性材料の開発・種々の触媒(機能性化学品合成用・家庭の燃料電池用水素合成および自動車排ガス処理)の工業化を経験した。また、会社の中期経営戦略を策定し技術経営を推進した経験を有する。退職後は、大学の知的財産管理を担当し、産学連携に従事した。自営業では大手商社の技術顧問、化学物質管理者として労働安全コンサルタント活動、製造物責任法に関する技術鑑定業務などの技術及び経営相談に対応している。




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